
日本全国のおいしいお取り寄せパンの中から、いまおすすめのパンをご紹介するこの連載。第31回目は、パンの廃棄ゼロの”捨てないパン屋”として知られている広島県のブーランジェリ―・ドリアンより「国産ビオ小麦のブリオッシュ」をお取り寄せしました。
捨てないパン屋になった理由
私が今回こちらのパン屋さんを取り上げたのは、パンの評判ももちろんですが、店主、田村さんの思想や生き方に感銘を受けたからという理由があります。特にお店のホームページで紹介されていた記事を、私は涙を流しながら読んでいました。
田村さんは、はじめから捨てないパン屋になれたわけではなく、その想いを持ちつつ行動や経験を重ねることで、捨てないパン屋になっていったそうです。
そのたくさんの経験の中では辛い想いもされたようで、私が一番心に刺さったのは「ボロボロになるまで仕事をして、心を壊すような世の中でなく、大好きな仕事をして、家族やパートナーと過ごせる時間もある。そんな世の中にしないとダメだ。と、強く思った」という一節でした。
田村さんは日本の一般的なパン屋さんと同じような労働時間で働いていたのですが、石窯は一度に大量のパンが焼けるものに作り直し、短時間労働を実現。
菓子パンは作らなくなり、シンプルな材料で日持ちがするパンを焼く。日持ちがするので、その日に余っても次の日にも安く販売することが出来る。材料は最高級の材料を使用する。美味しいので売り切れる。それによりパンの廃棄がない、という日々が続き、気付けば捨てないパン屋となっていたそうです。
週休3日で1日の労働時間も以前より短時間に。夏休みも1ケ月程とっているそうですが、年収は変わらず、今ではアップしているほどだとか。
お店のホームページの「メディア掲載歴」で紹介されている記事には、どれも興味深いことがたくさん書いてあり、著書も出されていますので、興味のある方は参考にしてみてください。
日が経つほどに香り立つパン
そんな「捨てないパン屋」から、心待ちにしていたブリオッシュが届きました。

ドリアンでは、ルヴァンと呼ばれる小麦を継ぎ足すタネや前日の生地で、パンを発酵させて焼いており、そのように焼かれたパンは乳酸菌の働きでグルテンを分解して旨味に変え、酸の働きで保存性も高いのだそうです。
そのため、焼きたて(パンの完成したて)を食べるのはおすすめではないそうです。数日置き、しっかりと落ち着かせて食べる方が、香りがよくなり、美味しく頂けるとのこと。そんなところから、冷凍便ではなく、今回は常温での配送を選びました。

原材料は有機小麦(北海道トカプチ産)、豆乳(九州産)、原料糖(種子島産)、発酵バター(高千穂産)、卵(岡山のkokumono)、塩(ベトナム産)です。それぞれ厳選された材料が使われているのが伺えます。
田村さんの日記のような通信も同封されており、読んでいてほっこりする楽しい読み物でした。定期便にされている方はこちらも待ち遠しいでしょうね。
トッピング無しでそのまま食べきってしまうほどの美味しさ
直径は19cm弱。スライスして、霧吹きで水分を加えてからトースターで焼いていきます。

出来上がるまでの時間、そのままの状態をつまみ食いして食べたのですが、まず食感が見た目のイメージより柔らかかったです。シンプルながらバターと糖の甘さがあり、もう一つこの味は何だっけと思ったものは、おそらく豆乳。一般的に想像するブリオッシュよりも、体に優しく染みわたる美味しさでした。
そして、トーストしたものを頂きます。

焼き目が付くまで焼いてみました。一口食べて、とても驚きました。そのまま食べたブリオッシュを、焼いたらこんな味かな?と想像した味の、数倍超える美味しさです!すごく美味しいです。耳はクッキー生地のようにサクサク、中身は噛むほどにしっとりと、引き立つ甘味旨味が最高です。
バターも感じますが、決して油っこくはなく重さも全くないです。ゆっくりと味わうほどに、卵のおいしさに気付きます。とても上質です。石窯で焼かれた香ばしさも感じます。とってもおいしいです!
別の日には、焼き目が付くか付かないか程度に温めて食べたのですが、食感がかなりふわふわしたものに変わりました。また、こんがり焼いたものをすぐに食べられず、少し時間が経ってから口にしたことがあったのですが、その時は焼き菓子のようなザクザク感がとても美味しく、もう一回これを食べたいと楽しんで作ってしまいました。
トッピングもしてみようかと考えていたのですが、この味をそのまま食べないのはもったいないと思い、全て温め方を変えるだけで食べきりました。
豊かで贅沢な時間を与えてくれるブリオッシュ
このブリオッシュを食べて、豊かとはどういうことなのか考えさせられました。日本は裕福な国に入ってはいますが、そこに個々の心の豊かさがどれくらいあるのだろうと。
私がパンを好きな理由のひとつに、パンを食べて過ごす時間が好きということがあります。忙しい朝に慌てて食べるのではなく、ゆったりとした気持ちで、パンのおいしさが出るまで一口ずつ噛みしめる時間が、とても贅沢に思えるのです。
そのパンは豊かな心をもって作られた最高の逸品がいいのです。ドリアンのブリオッシュはそんな贅沢で幸せな時間を与えてくれる、とても素晴らしいパンでした。興味をもたれた方には是非一度味わって頂きたいです。