ピアノのような見た目のかわいさはもちろん、コーヒーやワインにも合う洋風の羊羹として、おとりよせネットはもちろん、テレビや雑誌でも人気の「ジャズ羊羹」。ワインで一昼夜漬け込んだ2種類のドライいちじくと、黒糖でさっぱりとした甘さは、羊羹=和菓子という概念を越え、ワインやコーヒーと合うお洒落なスイーツです。
このジャズ羊羹を生み出した「湯布院 ジャズとようかん」の谷川義行さんに、「ジャズ羊羹」が生まれた理由、そしてこれからのことをお伺いしてきました。「いつでも辞めてしまう覚悟はできている」と語る谷川さん。いったい、その覚悟の理由とはなんでしょうか?

大分県で有名な観光地・温泉地でもある「湯布院」。大分空港からバスで約55分、博多からも直通バスで2時間とアクセスもしやすいことから、日本だけではなく、世界中から多くの人が訪れる人気の観光地です。由布院駅から徒歩で美術館や観光地を巡ることができるので、日帰りで訪れる方も多いんだとか。そんな湯布院に「湯布院 ジャズとようかん」はあります。
湯布院のメイン通りである、湯の坪街道にある「湯布院 ジャズとようかん」は、カフェと雑貨、ギャラリースペースを持つお店。シックな建物は隣接するお店とは雰囲気が異なり、オシャレなものに出会えそう…!と、つい引き寄せられてしまう魅力のある佇まいです。私が訪れたときも、人の出入りが多くあり、その人気ぶりがうかがえました。
この日は梅雨に入ったとは思えないほどの青空が広がっていたので、お店の前のベンチでお話をお伺いしました。
すばらしいものに、あっけなく出会ってほしい
谷川さんは、コンサートプロモーターとして音楽イベントを開催するなど、「音楽」と「人」との架け橋になる活動をされてきました。ジャズ羊羹も架け橋のひとつで、音楽とつながるきっかけを作るために生まれました。
「音楽が好き?」と聞かれたとき、音楽の知識が豊富でないと「好き」と言ってはいけないのかな。と、感じてしまう人が多くいます。けれども、魅力的なビジュアルのジャズ羊羹は、その見た目に興味を持ち「これはなんだろう?」と、音楽に興味はなくても気軽に近づける。この気軽さこそが、ジャズ羊羹の魅力です。
湯布院の街を歩いていて、とても魅力的な羊羹を見つけ、手に取ってみる。音楽に興味はなくても、このピアノをモチーフにしたビジュアルに興味を持ち、「これはなんだろう?」と、いつの間にか音楽に気軽に近づいています。
この気軽さがジャズ羊羹の魅力でもあり、こんな風にジャズ羊羹を知った人が、いつの間にかあっけなく音楽や素敵なものに出会って欲しい。ジャズ羊羹にはそんな思いが込められています。
商品名から始まった「ジャズ羊羹」の開発

そもそもなぜ「ジャズ」+「羊羹」なのでしょうか。
それは谷川さんの「商品名は、ジャズ羊羹!」の一言から。形も味も、何も決めていないけれど、まずは商品名を決め、イメージをどんどん膨らませていったそうです。
まず羊羹にした理由は、「おいしいけれど、地味。でも昔から日本で親しまれていますよね。だからこそ、魔法のかけがいがあると思った」(谷川さん。以下同)から。
「和菓子としてではなく、“スイーツ”として広めていきたかった。羊羹にはお茶が合いますよね。でも昼間はコーヒーを飲むし、食事に合わせてワインやシャンパンも飲みます。自分のライフスタイルを考えても、コーヒー×スイーツ、ワイン×スイーツの方が、より生活に馴染むと思ったんです」。
そうして自分のライフスタイルを基点として考え、選んだ羊羹と、ピアノを組み合わせることになったのですが、その理由も「世の中には鍵盤、音符、ピアノをモチーフにしたものが多くあるけど、どうしても自分が気に入るものが無かった」という、自分基点によるもの。
ただ、いまの形になるまでには、かなりの苦労があったのだとか。
「最初から鍵盤のデザインが決まっていたわけではなく、試行錯誤をしてやっと今の形にたどり着きました。鍵盤の線ひとつにしても、きっちりしすぎず、手作り感のあるやわらかさを表現できるように何度も作り直しました」。
そうして出来上がった鍵盤ですが、開発段階ではひびが入ってしまうこともあり、職人さんに相談して何度も修正してもらったそうです。気がついたら、開発を始めて9ヶ月が経っていました。
「ジャズ羊羹は、箱を開けた瞬間のよろこびを大切にしています。持ち帰って、楽しみに箱を開けたら鍵盤にひびが入っていた、なんてことがないように、細かな部分まで思いやこだわりを込めています」。
何度も作り直したこともあって、初期のジャズ羊羹はいまのデザインと全く違うそうです。「いつか復刻版として限定販売してみたい」とのこと。
「ジャズ羊羹」はアーティストや雑貨に出会うための入り口
谷川さんにとってジャズ羊羹は、音楽との架け橋でもあり、自分の思いや活動を伝えるためのアイテムでもあります。それは谷川さんのお話からはもちろん、お店に行けば感じることが出来ます。

奥へと続くギャラリーの入り口

オリジナルバンダナ

マグカップ
お店の奥にすすむとTシャツや雑貨、CDが販売されています。どれも谷川さんのお気に入りの品々で、作家さんのオリジナル作品。こうした作家さんを知ってもらうことも、谷川さんの活動の一つです。
多くの作家さんが、それぞれの個性を生かした素敵な作品を作っているのに、その作品がなかなか知ってもらえない。そんな作品と人々がつながる「きっかけ」づくりの場としてこのお店があります。ジャズ羊羹に興味を持ってお店に入った方々が、他にもこんな素敵な作品に出会える。ジャズ羊羹は、私たちが「音楽」や素敵な「作品」と出会うための入り口なんです。


「いつでも辞めてしまう覚悟はできている」の真意
谷川さんに今後のことをお伺いすると、「いつでもあっさりと辞めてしまう覚悟はできているんです」と一言。知名度もありテレビや取材の依頼が絶えないというジャズ羊羹ですが、それを辞める覚悟はあるとはどういうことなのでしょうか?
「確かに知名度が上がり、多くの人がその存在を知るようになりました。しかし、SNSでの広がりや商品単体だけが一人歩きをしてしまっては、自分が大切にしている「出会い」や「きっかけ」を知ってもらえない。ジャズ羊羹の本来の意味が失われてしまいます」。
谷川さんをはじめ、「湯布院 ジャズとようかん」が行ってきた活動には、昔からのファンが多くいます。そのファンの人たちと一緒に成長してきたいし、ファンの人たちが喜んでくれることをしたい。その想いが根底にあるので、ジャズ羊羹が有名になってくれることは嬉しいが、一人歩きをして思わぬ方向に行ってしまうのであれば、いつでも辞めてしまっていいと思っているそうです。
「ちょっと生意気ですけどね」と、笑いながら話してくれた谷川さん。全てには過程があり、本当に信念のある活動をされているからこその言葉です。
もちろん、辞める予定があるわけではないのでご安心を。これからの新商品も開発中とのことです。

スタッフの方々

取材中もお客様が多く来てました
「湯布院 ジャズとようかん」では、定番の「ジャズ羊羹」に加え、ワインやシャンパンを合わせたくなる「ジャズ羊羹 ginger」も新定番として販売されています。さらにバレンタインシーズンの期間限定で「チョコ羊羹」も販売するなど、一年を通して目が離せないラインナップ。どれも思わず食べてみたくなる素材の組み合わせです。これらの開発なども、全て谷川さんのアイディアから、信頼のある職人さんと一緒につくっています。
現在も、次回の新商品発売に向けて開発中。詳細はまだまだ秘密ですが、一瞬にして私たちを虜にしてしまう「ジャズ羊羹」シリーズに、今後も期待が高まります。