日本には数多くの「老舗」と呼ばれるお店があります。そんな老舗には必ずと言っていいほど長く愛され続ける「定番」の商品があります。老舗の定番を知れば、そのお店が長く続く理由や本物の美味しさを知ることができます。
そんな「老舗の定番」をご紹介するこの連載。第一回目は、江戸時代の創業以来、今も変わらぬ製法で作られ、長く愛され続ける和菓子をご紹介します。
丸いのが本来の姿!「きんつば」の名の由来とは?
日本橋に本店を構える「榮太樓總本鋪」は、江戸の文政元年(1818年)創業と、200年以上の歴史を持つ老舗の菓子店です。初代は日本橋河岸で金鍔(きんつば)の屋台売りから始め、やがて魚河岸の商人や軽子たちの評判を呼び、その噂が江戸中に広まったのだそう。この看板商品が、今も変わらぬ製法で作られる「名代金鍔(なだいきんつば)」です。
さて、「金鍔」と聞いてイメージする形は何ですか? 四角いと思われていることもありますが、もともとは、刀の「鍔(つば)」をかたどった、丸く平たい形のお菓子です。
京都に「銀鍔」というお菓子があり、これは米粉の皮で餡を包んで焼いた菓子だったそうですが、江戸で小麦粉の皮に変えて焼いたところ、食欲をそそる焼色が付き、「米の皮の銀色より、金色の方が上だ」ということで「金鍔」と名付けられたという逸話があるそう。銀が重んじられた上方文化に対して、江戸では金の方が価値がありましたから、江戸っ子らしい、洒落っ気の効いたエピソードですね。
見事な職人技による、伝統の製法

その作り方は、ごくごく薄く伸ばした小麦粉の生地で餡を包み、丸めたものを銅板の上に並べ、ごま油で香ばしく両面を焼くというもの。
私は以前に、「榮太樓總本鋪」の工場見学をさせていただいたことがあり、「名代金鍔」製造の工程も拝見しましたが、職人さんが、たっぷりの餡を「小指の先ほどの小麦粉生地で箔のように薄く包む」という伝統の技。その手さばきといいスピードといい、それはもう見事でした。
中に包まれた小豆餡は、希少な十勝産のエリモ小豆を、小豆本来のコクが残るように渋抜きし、一晩の蜜漬を経たのち、粒を潰さぬよう丁寧に煉り上げてつくるそう。京菓子などとはまた趣きの異なる、これこそが江戸の餡だといいます。
たまに、「金鍔の中身は羊羹」と誤解されたりもしますが、寒天で固めた羊羹とは異なるので、「榮太樓總本鋪」の「名代金鍔」の中身も、とてもしっとりしてやわらかい食感が特徴。ほんのり焼き目のついた周りの皮の香ばしさ、表面にちょこんと散らされた黒ごまの風味もアクセントとなっています。側面の生地にもしっかり火が入るよう、途中で縦向きに起こしてサイドまで焼くのもポイントです。
現在、「榮太樓總本鋪」の日本橋三越本店の店舗で、実演販売が行われていて、銅板の上で「名代金鍔」を焼く様子を見ることができます。
季節限定味も登場。食べる時の一工夫もお試しを!

プレーンの餡以外に季節限定の味も登場します。4月末までは「桜金鍔」、5月にはさっぱりとした酸味がアクセントの「甘夏金鍔」。夏には、すりつぶした枝豆たっぷりの「ずんだ金鍔」、秋には、刻み栗を贅沢に使用した「栗金鍔」。冬には安納芋入りの「芋金鍔」、そして黒ごまの深い味わい「ごま金鍔」といった具合。
この「名代金鍔」。食べる時にほんの少しだけオーブントースターで温めていただくと、焼き立ての香ばしさがよみがえるので、私はそれがお気に入りです。ぜひお試しくださいね!


スイーツジャーナリスト