長く愛され続ける「老舗の定番」をご紹介する連載。第六回目は、和菓子の老舗「とらや」より、月の意匠を表した風情のあるお菓子、「残月」です。
室町時代創業「とらや」の銘菓、「残月」とは?
日本を代表する老舗「とらや」は、室町時代後期に京都で創業。五世紀にわたり和菓子屋を営み、御所の御用を勤めてきた、由緒あるお店です。明治時代の東京遷都にともない、天皇にお供して東京にも進出し、現在に至ります。
そんな「とらや」の代表銘菓は、小倉羊羹「夜の梅」を初め、色々とあるのですが、私が大好きな一品が、こちらの「残月」です。
菓銘の「残月」とは、明け方まで空に残っている月のこと。「有明月(ありあけづき)」とも呼ばれ、古くから、短歌や俳句にもよく詠まれています。その名のとおり、半月状に二つ折りにした生地の表面にすり蜜を塗った姿が、薄雲のかかった残月を思わせるお菓子。生地からほんのりと生姜の風味が広がり、生姜好きの私には、それが何とも言えません!
少しシャリッとするすり蜜をまとった生地は、密度がぎゅっと詰まった食感で、どら焼きなどに比べて、しっかり硬め。「ふくらし粉」の類いを使わず、小麦粉や卵といった素材の持ち味を活かしています。そこに生姜の絞り汁がふわりと香るのが特徴です。
餡は、虎屋でも様々な種類を使い分けていますが、これは「御膳餡(ごぜんあん)」と呼ばれるこし餡入り。とらやの餡は、「渋きり」の回数が少ないため、こし餡でも小豆の風味がしっかりと感じられ、濃厚な味わいが特徴です。
江戸時代の形状から変化して今の形に
資料室「虎屋文庫」の記録によると、このお菓子は、江戸時代中期の正徳元年(1711年)の史料に「棹菓子」として初出するそうです。また、江戸時代末期、安政7年(1860年)の『大内帳』には、「残月 生姜入衣掛け 壱斤」 という記載があり、生姜も使われていたようですが、単位から干菓子と思われ、現在のものと同じではない可能性が高いと言います。
今のような形での記録が残っているのは、大正7年(1918年)の菓子見本帳で、「生姜入残月」として描かれているそう。定番商品化したのは戦後のことと思われ、昭和27年(1952)のパンフレットには、通年商品として掲載されていたそうです。
2018年10月、リニューアルオープンの赤坂店に限定版も登場!
実は、本社ビル建て替え工事のため、2015年10月から休業されていた「とらや 赤坂店」ですが、2018年10月1日、待望のリニューアルオープン!ガラス張りの外装も斬新で、あっと驚かされます。
こちらには、店内に新たに設けられる御用場(製造場)で、当日作られて店頭に並ぶ「赤坂店限定 残月」が、新たに登場するそう。喫茶スペースの虎屋菓寮でもいただくことができます。
通常品の「残月」は、百貨店なども含めた「とらや」各店の店頭ではもちろん、通販でも購入できますが、作り立ては、やはり一味違うのか? ぜひ食べ比べてみたいですね!

スイーツジャーナリスト






















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