長く愛され続ける「老舗の定番」をご紹介する連載。第五回目は、江戸時代創業で200年以上の歴史を持つ京菓子司「亀屋良長」より、看板商品の「烏羽玉(うばたま)」です。
京都で八代続く老舗菓子司
「亀屋良長」は、江戸時代の享和三年(1803年)、京都・四条醒ヶ井(さめがい)の地で創業。ここに湧き出る良質の水を材料の一つとして、菓子作りを続けてきました。現在は八代目の吉村良和さんが暖簾を受け継いでいます。

2016年11月にリニューアルした店舗内では、上生菓子や喫茶限定メニューもイートイン可能。和菓子作りの体験教室も、国内外からの観光客に大人気です。店の脇には、創業から変わらず湧き出る「醒ヶ井水」があり、ひんやりした水で喉を潤すことができます。
代々受け継がれる漆黒の銘菓「烏羽玉」とは?
創業より続く代表銘菓「烏羽玉(うばたま)」は、沖縄の波照間島産の黒砂糖を使ったこし餡を一口大に丸め、艶掛けの寒天をかけたもの。
お正月の羽根突きの玉に使われる「檜扇(ひおうぎ)」という植物の実は「ぬばたま」と呼ばれ、濡れたように美しい漆黒で、「黒」や「夜」の枕詞として、古歌にも歌われてきました。「烏羽玉」は、これをモチーフにしたお菓子で、カラスの羽、即ち「黒」を表す美称「烏羽」の字が当てられています。
「亀屋良長」でも、味や大きさは時代に合わせて変化してきたそうですが、つややかな餡玉の上に芥子の実を散らす意匠は、かたく守り続けられてきました。
口にすると、つるんと薄くかかった寒天の中から、濃厚なコクの黒糖風味がじんわりと広がり、芥子の実のプチプチ感もアクセントに。お茶と一緒にゆったりと味わいたいお菓子です。

そんな「烏羽玉」に、2018年、気になる新顔が登場しました。カカオ豆の焙煎から自前で行ってチョコレートを製造する“ビーントゥーバー”ブランドで、アメリカ・サンフランシスコ発の「ダンデライオン・チョコレート」。そのグァテマラ産カカオを餡玉に練り込んだ「烏羽玉CACAO」です。上には砕いたカカオニブをトッピング。餡のコクに、カカオの香ばしさや食感が想像以上にマッチします。どちらもオンラインショップで購入できるので、両方を食べ比べると楽しいですよ。
現代のニーズに合わせて、体にやさしい品も開発
さらに、奥様の吉村由依子さんが、心と体にやさしい素材を使った京菓子を提案するブランド「吉村和菓子店」には、「美甘玉(みかもだま)」という品があります。
こちらも、「烏羽玉」を原点として、低GI値のココナッツの花の蜜とココナッツミルクをブレンドした餡玉に、ココナッツシュガー入り寒天をかけ、芥子の実をのせたもの。「パラチノース®」という、体内にゆっくり吸収される糖を配合し、血糖値の急上昇を防ぐことで肥満に繋がらないよう配慮もされています。

210年続く伝統銘菓を継承しつつ、さらに時代のニーズに合ったものを生み出そうと試行錯誤を続ける吉村ご夫妻。そんな「亀屋良長」さんの挑戦に、老舗だからこそ拓くことのできる、新たな可能性を感じます。


スイーツジャーナリスト