
スイーツジャーナリスト
長年愛される「定番」スイーツ紹介の連載、第32回は、王貞治さん出演の「お菓子のホームラン王」というテレビCMで一世を風靡した「ナボナ」をご紹介します。東急線利用者にはなじみ深い、自由が丘生まれのお菓子です。
自由が丘発、イタリアでヒントを得た銘菓誕生の秘密
「亀屋万年堂」創業者の引地末治(ひきち すえじ)氏は、福島から上京して浅草橋の老舗和菓子店で修業後、1938年に自由が丘の地で創業しました。
太平洋戦争中は戦地に動員され、戦後は物資不足の苦難を乗り越えて商売を再開。横浜市内に大きな工場を構え、現在はお孫さんの引地大介氏が社長を務め、東京都と神奈川県内に約30店舗を展開しています。

代表銘菓「ナボナ」の発売は1963年。引地氏がイタリア・ローマでお菓子祭りを視察して現地のお菓子文化に感銘を受け、「和菓子の感性を活かしながら、洋菓子の楽しさにあふれた商品を創りたい」と、“洋風どら焼き”の発想で、軽い歯触りのソフトカステラの間にイタリアンメレンゲでふんわり仕上げたクリームを挟みました。
名前の由来は、イタリアの「ナヴォーナ(NAVONA)広場」より。当初はチーズクリームとママレードジャムの2種類だったそうです。
定番の「チーズクリーム」は、クリーム自体にもチーズのほのかな塩味が感じられ、粒状のチーズも入り食感と味わいのアクセントに。

現在の定番味となっている「パイナップルクリーム」は、クリームにホワイトチョコレートを多めにブレンドし、コク深くとける味がパイナップルの甘酸っぱさを引き立てます。冷蔵庫で冷やしても、冷凍庫でアイスケーキ風にしても、爽やかに味わえてお勧めです。

そんな「ナボナ」は、1967年、親交のあった読売巨人軍(当時)の王貞治選手が出演するテレビCMを制作。「ナボナはお菓子のホームラン王です」というキャッチフレーズで注目を浴びました。売れ行きも爆発的に伸び、全国区の大ヒット商品へと成長したのです。
季節限定味や新顔も登場、自由が丘の文化を伝えるお菓子に
「ナボナ」には季節限定の味も登場し、2021年5月後半より、夏限定の「贅沢白桃」が発売されています。国産の白桃を使ったジャムと白桃味のクリームをふんわり生地でサンドしたやさしい味です。

これまで、春にはいちごクリーム&いちごジャム、秋にはキャラメル林檎やマロンクリームの「ナボナ」なども登場してきました。
2018年にリニューアルした「ナボナ」の新パッケージは、自由が丘をイメージする「文化」や「スイーツ」「自然」「気取らないオシャレ」などを表現したもの。素材もクリームの原材料を見直し、さらに美味しさを追求したそうです。

「ナボナ」の賞味期限は、お取り寄せで到着後、約7~10日間程度ですが、2009年には賞味期限60日の「ナボナLong・Life」も発売。直営店以外でも取り扱い可能な店舗が増え、認知度が上がっています。オリジナル品より少し小ぶりで、バニラ、チョコレート、ミックスベリーの3種の味があります。

2021年1月、菓子メーカーの「シャトレーゼホールディングス」が、「亀屋万年堂」を子会社にして大きな話題となりました。創業から80年以上、積み上げてきたお菓子への情熱や技術が、これからもぶれることなく継承されていくことを願いたいですね。