
スイーツジャーナリスト
長年愛される「定番」スイーツをご紹介する連載、第三回は、冬から春に一番人気の“苺”が特に見逃せない、「小ざくらや一清」の「おほほっ」です。
看板商品「おほほっ」とはどのようなお菓子?
「小ざくらや一清」は、愛知県名古屋市に本店を置く和菓子店です。明治45年に創業、戦後に現在の場所に移転。もともとは干菓子を製造してきて、現当主である四代目の伊藤高史氏は、その後を継ぎつつも、現代的な味覚に合わせて甘さも控えめに、新感覚の和菓子作りにも挑戦されています。

私が、こちらの看板商品「おほほっ」に初めて出会ったのは、名古屋駅の「名鉄百貨店」本館地下1階スイーツステーション内の店舗でした。一言で説明すると、フルーツを丸ごと包み込んだお餅。「おほほっ」というネーミングも面白く、印象的です。
伊藤氏がこのお菓子を作り始めたのは、21年も前のこと。最初は缶詰のフルーツを使っていて、全く注目されなかったそう。間もなく、フレッシュの果物を使うようになりますが、当初は近所の八百屋さんから買ったもので、まだまだ苦戦が続いたといいます。

それが変わっていったのは、果物農家さんとの出会いのおかげ。旬を味わってほしいと、農家から直接仕入れた季節のフルーツ入りのシリーズが生まれていきます。その中でも、一番の人気を誇るのが、12月から翌4月頃まで販売される「愛知の苺」です。
思わず笑顔に!お餅の中から溢れる、みずみずしい果実の味わい

柔らかな羽二重餅の中には、伊藤氏が7年間探し続けたというこだわりの苺。その色が映えるよう、黒い餡ではなく白餡で薄く包み、さらに外からも透けて見えるようにと、滋賀県産の羽二重米を使用した、透明感のある極上の特製羽二重餅でくるんでいます。
苺は、程よい酸味と糖度のバランスが大切で、形も重要です。伊藤氏は、どうしても新鮮な苺を使いたいと探し求め、2001年、ついに、自宅からすぐ近くの愛西市八開という場所に評判の苺の産地があると聞き、直接、農家の方に話をしに行かれたそう。
それが、硬さや色艶、酸味、糖度、形とも申し分のない、愛知生まれの新品種「ゆめのか」との出会いでした。こうして、摘みたての朝穫り苺を使用した、「おほほっ」が完成したのです。
一口噛むと、中の苺の何とも甘いこと!程よい歯応えと柔らかさとを兼ね備え、じゅわっと溢れる果汁が、なめらかな羽二重と少量の白餡と合わさり、みずみずしくとけあってきます。

9月~翌6月頃には、紀州産“みかん”の「おほほっ」も登場。みかん色の透ける羽二重の中から、とろりと甘い果汁がほとばしります。他にも、初夏月から11月頃の岡山産ピオーネ、8月末頃からの広島県尾道市産いちじくなど、季節ごとに様々な果物、さらに岐阜県産のフルーツトマトなどが使われます。
まさに、伊藤氏の思いと、農家の方々の思いを包み込んだ珠玉の1粒。日保ちは短いので、お取り寄せの場合は、ぜひ届いたその日中に召し上がってくださいね。